「愛情」と「友情」どちらが大切か

 夫婦関係が続くためには、夫婦満足度が高くなければならない。では、夫婦満足度を高めるためには何が必要だろうか。ここでは、越智啓太『出会いと別れをめぐる心理学』に掲載された研究を参照して検討してみよう。

 

 越智氏は、交際満足度を向上させる要因として以下の3つの要素を想定する。

 

①愛情

②友情

③尊敬

 

 そして、これらの要素がそれぞれ交際満足度に対してどのような影響を与えているのかを検討している。結論としては、以下の通りとなる。

 

① 愛情と交際満足度の間には直接的な関係は存在しない

② 一方で、尊敬と友情は、交際満足度に影響を与える。とくに、友情の影響は大きい。

③ 愛情は、尊敬と友情に影響を与えることで、間接的に交際満足度に影響を与える。

 

 あえて乱暴にまとめれば「愛情よりも友情が大切だ」ということになる。しかし、本当にそうだろうか。

 

 越智氏は、愛情を以下のような尺度を用いて測定している。

 

(1) ◯◯さんを独り占めしたいと思う

(2) 私は一人でいるといつも◯◯さんに会いたくなる

(3) ◯◯さんのことならどんなことでも許せる

 

 上記(1)〜(3)の尺度を7段階で評価するのだが、それで「愛情」が豊かだと言えるだろうか。私にはそうは思えない。私が考える〈愛情〉とはそういうものではないからだ。

 

 越智氏が想定する愛情は「あなたは独占めしたい」というものだ。しかし、これは執着といったほうがしっくりくるのではないか。そして、相手から執着されたら「鬱陶しい」と感じて交際満足度は低下すると考えるのが自然ではないか。

 

 いっぽうで、越智氏は友情を以下のような尺度で測定している。

 

(A) ◯◯さんと一緒にいると落ち着く

(B) ◯◯さんと遊びに行くのは楽しい

(C) ◯◯さんから信頼されると嬉しく思う

 

 これらの尺度について YESならば「友情」が豊かだということになる。そして、これらの尺度は交際満足度に対してプラスに働くことは素人でもわかる。

 

 結果として「交際満足度に影響を与えるのは愛情ではなく友情だ」という結論が導かれる。しかし、これは「そんなの当たり前だろ」ということにならないか。愛情という言葉を恣意的に切り取っているからこそ、自ずとそのような結論に至るということではないのか。

 

 越智氏は犯罪心理学者なので、愛情を執着と捉えた上でストーカーが発生する原理などについて研究したいという動機があるのかもしれない。それはそれで有意義なことだが、愛情という言葉を誤って定義している印象を受ける。

 

 それでは、愛情とは何だろうか。執着とどう違うのだろうか。この点については、また別の記事で検討することとしたい。

 

参考文献:越智啓太『恋愛の科学』(実務教育出版、2019)