やりたいことについて
先生:今日は、どのようなご相談でしょうか?
太郎:自分がやりたいことについて、ですね。
先生:どうして、やりたいことについて相談したくなったのですか?
太郎:彼女が僕によく聞くんです。「あなたはどうしたい?」って。
先生:そのとき、どんなふうに感じるのですか?
太郎:なんだか、居心地が悪い感じですかね。
先生:居心地が悪いのですか。
太郎:ええ。自分のやりたいことを、したくないというか。
先生:やりたいことをやりたくない。なんだか不思議ですね。
太郎:そうでしょうか?たとえば、怠けたいと思っていても、そうしないことってありますよね?
先生:確かにそうですね。そのときの感覚と似ているのですかね?
太郎:そうですね。自分がやりたいことはあるけれど、そうしないことはあります。
先生:そうしたほうが気分が良いから、そうするのでしょうか?
太郎:いえ、そうではないですね。むしろ、グッと抑える感じがしますから。
先生:「ホントは、そうしたいんだあ!」という気持ちを抑えるということですか?
太郎:そんなところでしょうか。そうやって抑えているときに「どうしたい?」って聞かれると、せっかく頑張っているのに、どうして責めるんだという気持ちになるのかな。
先生:なるほど。太郎さんは頑張っているわけですね。
太郎:そうなんです。頑張っているんだけれど、そんなの必要ないって言われると、なんだか否定されたような気がして嫌なんです。だから、余計に意固地になってしまうというか。。。
先生:いいんですよ。それが太郎さんの感覚なのですから。太郎さんは「やりたいことは?」と聞かれると、せっかく頑張っていることを台無しにされたような気持ちになるんですよね。
太郎:そうですね。でも、もっと良い方向があるような気もするんですよね。
先生:どういうことでしょうか?
太郎:だって、本音をグッと自分の中にとどめておくのって、大変じゃないですか。
先生:大変なんですか?
太郎:そりゃ、そうですよ。本音をパッと言えたほうが気楽だと思います。
先生:でも、太郎さんは気楽だからといって、それをやったほうがよいとは思わない。
太郎:う〜ん。なんだろう。比較の問題じゃない気がするんです。
先生:比較ではないのですか。
太郎:「どちらのほうが良いですか?」と聞かれると選択の問題のような気がしますが、実際はもっと面倒な感じがするんです。
先生:「こうしたい」って言えばおしまい、というわけではないということですか?
太郎:う〜ん。どうなんだろう。僕の言葉遣いが変なのでしょうか。自分の中に納得感が出てこない。
先生:それは、今まさに「こうしたい」っていう話をしているからだったりしませんか?
太郎:どういうことでしょうか?
先生:太郎さんは、私とこうやって話す中で「抑えこむ」以外のあり方を考えているわけですから、それ自体に居心地の悪さを感じている、ということはありませんか?
太郎:ああ・・・なるほど。もうすでに気持ちを抑えにかかっているから、うまく言葉が出てこないわけですか。やめたほうが「いつもどおり」という意味で「気楽」になれると思っているのかもしれません。
先生:そういう感覚がありますか?もしくは、彼女と話している時の感覚と似ていますか?
太郎:うん、ちょっと似ている気がします。
先生:だとすると、太郎さんは、自分のやりたいことを話すことは「抑える」というのが習慣になっているのかもしれませんね。もちろん、それが悪いということではありません。単なる習慣ですからね。
太郎:でも、単なる習慣で彼女との関係がうまくいかないのは嫌だなあ。
先生:大丈夫ですよ。彼女は、あなたがそうやって葛藤するなかで、二人の関係にプラスになる方向へと自分を変えていける人だと信じてくれているし、待ってくれますよ。
太郎:僕は変わらないといけないということですか?
先生:いえ、変わるかどうかじゃないんです。さっき太郎さんが言ったように「変わることを選択する」という問題ではないのですよ。選択すればうまくいくというものではないですからね。
太郎:僕はどうすれば良いのでしょうか?
先生:いえ、何もしなくていいのですよ。このままで大丈夫です。
太郎:自分の気持ちを抑えたままでも良いということですか?
先生:でも、できそうですか?だって、太郎さんは「自分を抑えているかもしれない」ということが分かってしまったのですよ?
太郎:分かってしまった?
先生:今度、彼女に「どうしたいの?」と聞かれたら、いつものように自分を抑えることができるでしょうか。もしかしたら、太郎さんは「別のやり方があるかもしれない」と瞬時に考えるかもしれません。
太郎:やりたいことを言ってみようと思うかもしれないということですか?
先生:そうして言ってみたあとに、どんなふうに感じるのか。今度は、それを聞かせてほしいですね。そのときに「あ、なんだか気分がいいな」と思うのか、それとも「ああ、やってしまった」と落ち込むのか。どちらでも構わないのです。その感覚を楽しんでみてはいかがでしょうか。
太郎:先生と話をしたがゆえに、僕はもう後戻りができなくなってしまったんですね(笑)
先生:なんだか人聞きが悪いですね。でも、それを太郎さんが望んだのでしょう。いいじゃないですか。そうやって自分の違和感を少しずつほぐしていくということが「成長」なのですから。
太郎:ちょっと、彼女と話したときに意識してみます。
先生:太郎さん、そんなに真面目にならなくていいですよ。意識しなくても、違うことが自ずと起きてきますから。そろそろ、時間ですね。次の機会を楽しみにしています。無理しないように。
太郎:はい、いつもどおりでいこうと思います。
先生:ええ、その調子です。