幹事をすることについて

先生:さて、今日はどのようなご相談でしょうか?

太郎:幹事にやることについてですね。

先生:幹事ですか。何かでやらないといけないのでしょうか?

太郎:会社で忘年会があるのですが、そこで誰が幹事をやるのかという問題になったんです。それで、誰もやりたがらなかったので、自分で立候補したんです。

先生:そうなんですね。幹事がやりたかったのでしょうか?

太郎:いえ、そういうわけではありません。誰かがやらないとダメなことって、あると思うんです。それを引き受ける人がいないとダメというか。

先生:そうですね。そういう立場を太郎さんは引き受けたという感覚なのでしょうか。

太郎:もちろん、被害者という意識はないです。むしろ、誰かがやらないとダメなことって「必要なんだけど面倒くさいこと」じゃないですか。そういうことを率先してやるからこそ、周りの人から感謝されると思うし、それで十分なんだと思います。

先生:そこからの見返りは特に求めないのですか?

太郎:求めないです。むしろ、「僕はこれだけ頑張ったんだから、見返りがあって当然だよね」という考え方をする人が幹事のような役回りをするのは良くないと思います。社交辞令として「引き受けたのは、見返りがあるからだ」ということは言いますが。。。

先生:なるほど。太郎さんは、自分のことしか考えていない人があまり好きではないのでしょうか。

太郎:そうかもしれません。それも、状況によって立場を使い分けるのも嫌なんです。

先生:どういうことでしょうか?

太郎:たとえば、会社の飲み会のときは面倒だから幹事はやらない。でも、大学時代の友達との関係は重要だから率先して幹事をやる。そういう姿勢が、自分はあまり好きではないんです。

先生:常に一貫した姿勢をとりたい、ということでしょうか。

太郎:そうですね。僕はそうありたいし、そうじゃないと嫌なんです。

先生:太郎さん、なんだか、今日はすごく怒っていらっしゃるような気がします。差し支えがなければ、何に怒っていらっしゃるのか、教えてもらってもよいですか?

太郎:ああ。。。実は、幹事を引き受けたときに、奥さんから「忘年会の日によっては、二人で過ごせる時間が少なくなるかもしれない」とか「私は率先して幹事は引き受けない」と言われて。そのときに「なんで引き受けたの?」と言われているような気がしたんです。

先生:それが嫌だった、ということでしょうか?

太郎:なんだろう。僕だって、そんな役回りをやらなくてすむんだったらやらないですよ。ただ、それが皆さんのためになるんだったら、率先して引き受けたほうが良いと思っているだけなんです。

先生:それが奥さんに伝わっていない感じがするのですか?

太郎:奥さんとこういう類の話をすると、いつも「あなたは自分が中心というのが好きだからね」というメッセージが裏にある感じがするんです。でも、そうじゃないんです。僕はただ、全体を俯瞰して見たときに「必要だけど面倒なこと」について誰も率先してやろうとしない状況があったら自分がやっても良いと思っているだけなんです。

先生:みんなの中心にいたいというわけではない、ということですね。

太郎:自分はそこまで自己中心的な人間だとは思いませんし、それを最優先事項として捉えたことは人生で一度もないです。

先生:そうなんですね。ところで、あえて聞くのですが、奥さんが言いたかったことは、そういうことなのでしょうか?

太郎:う〜ん。僕が幹事を引き受けることによって、一緒にいる時間が少なくなることが悲しい、と言いたかったのかもしれません。確かに、僕が大学院に行くことで、一緒にいる時間は少なくなっているし、幹事をやることによってますます時間はなくなるのかもしれないけれど。。。

先生:まだ、やりきれない気持ちがありそうですね。奥さんに、ちゃんと自分の気持ちを受け取ってもらえていないと感じるからでしょうか?

太郎:そうなのかなあ。でも、僕も、奥さんの不安に寄り添えていないところはあると思うので。そして、奥さんの不安を喚起したのは僕が幹事を引き受けるという選択をしたからなので。

先生:今、私に話してくださったことを奥さんに話したら、気持ちは落ち着くでしょうか。

太郎:いや、もうちょっと先生とお話をしてからにしたいです。まだ自分の中で嫌な気持ちが残っているんです。スッキリしない。ということは、まだ「嫌な気持ち」をしっかり言葉にできていないんだと思います。

先生:そうですか。でも、それぐらい太郎さんにとって重要なことだったのかもしれませんね。

太郎:そうかもしれません。でも、きっと、自分でもうまく言葉にできていない大切な価値観を否定された感じがしたんだと思います。もちろん、奥さんは悪くないです。僕の選択が引き起こしているわけですから。まずは、自分の中の価値観を明確にするのが先ですね。

先生:でも、奥さんに話さなかったら、関係がギスギスしませんか?

太郎:う〜ん、でも、これについては、先生に話せるから大丈夫だと思えればいいんじゃないかな。今まで、そういう回路がなかったから、ギスギスした部分もあるし。

先生:そうですか。でも、無意識に奥さんを攻撃してしまうかもしれませんから、自分の中に置いておけないと思ったら、正直に奥さんに話してくださいね。そうでないと、余計に関係がこじれてしまいます。

太郎:そうですね、それは注意しないと。奥さんとは幸せな時間を過ごしたいので。

先生:そうですね。事実をよく見てくださいね。客観的には、何も悪くなっていないですから。

太郎:はい、奥さんとは二人でどう過ごせばもっと幸せになれるのかを話してみます!

先生:ええ、そうしてください。また、この件で話がしたいと思ったら、いらっしゃってください。今日は時間が来ましたから、またの機会にしましょう。

太郎:はい、ありがとうございます。また来ます。

先生:ええ、いつでもどうぞ。